Spooky Boo
スプーキーブー / 白き森
偉大な魔女が消えた。
森は彼女を探し続けている。
そういう話になっている。いつからそうなのかは、誰に聞いても曖昧で、たぶん本当のところは 誰も知らない。ただ、の木は、今も少しずつ向きを変える。朝に東を向いていた枝が、日が落ちる頃には別の方角を指している。 探している、と言われれば、そう見えなくもない。白いのは雪のせいだと思われてますけど、雪のない季節も白いんです。……理由は、聞かないでください。
が居た頃を覚えている人は、もうずいぶん少ない。覚えている人ほど、その話をしない。森が探しているのは彼女なのか、それとも、 彼女が居たという証拠の方なのか。そこまで考えて、たいていの人はやめる。長いので。名前は、みんな忘れてしまいました。忘れさせたのは本人だ、って先生は言います。
森の東、地図を描いた人が筆を止めたあたりに、灯りがひとつある。
看板は出していない。扉に Spooky Boo とだけ彫ってある。彫ったのはで、二文字目で力が余ったらしく、そこだけ深い。あたしです。魔女見習いです。……もう、見習いという歳でもないんですけど。
お茶を出す店ということになっている。実際、お茶は出る。日替わりで三種、その日にあるものだけ。
ただ、ここへ来る人は、たいてい茶の話をしない。
椅子に座って、湯気が上がるのをしばらく見て、それから、天気の話でも続けるみたいに切り出す。
——あのう。うちの階段が、一段増えたんですけど。
店の裏にがある。細くて、浅くて、底の石まで見える。小魚がいる。数えようとすると毎回ちがう数になるのだが、ナツは十三匹だと言い張っている。 十三匹です、と言うときだけ、少し声が大きい。森の水が、いちど集まって、また散っていくところです。底の石が、たまに動きます。
がときどき来て、湯の温度に文句をつけて帰る。はだいたいついてくる。来ると、鍋の蓋で遊んでいる。賑やかな日と、そうでない日がある。あたしの先生です。口は悪いですけど、湯の温度はいつも正しいです。先生についてくる子です。ものを食べると、味の感想を必ず言います。だいたい、ずれています。
そうでない日に、手紙が届く。
差出人はたいてい一度きりの人で、住所も書いていない。困りごとが、途中から始まって、 途中で終わっている。返事の出しようがない。
それでもナツは全部とってある。読んで、考えて、解けないまま、机の引き出しに入れている。
「あたしは聞くだけなんです」と本人は言う。
聞くだけを、ずいぶん長く続けている。
——お茶は、そのあいだに冷める。
冷めたら、淹れ直せばいい。ここはそういう店です。