へんてこ純喫茶
kino
2026年1月5日 13:30
211
20分
<吹雪が吹き荒れる雪原。三つの影が歩いている>
001
ナニーカ
「駄目だ、何も見えない……!」
002
キノ
「さむい〜〜〜」
003
エト
「死ぬ」
004
キノ
「おなかすいた〜〜〜」
005
エト
「死ぬ」
006
ナニーカ
「おまえらうるせぇなぁ! 止まったら凍るぞ!」
<ナニーカが曇ったメガネを拭きながら周囲を見回す>
007
キノ
「僕のしっぽ、もうアイスキャンディーになってる気がする……」
008
エト
「舐めてみる?」
009
キノ
「やだ」
010
ナニーカ
「キノ、もう少し頑張ろう」
011
キノ
「はぁい……あ」
012
ナニーカ
「ん?」
013
キノ
「……あっち、なんか匂いする」
014
エト
「匂い?」
015
キノ
「うん……あったかい匂い。甘い匂い。……こっち」
<キノが吹雪の中を歩き出す。その足取りは不思議と迷いがない>
016
ナニーカ
「おい、キノ! 勝手に……」
<吹雪の向こうに、明かりが見える。>
<古びた木造の喫茶店>
017
エト
「……喫茶店?」
<看板には『ネルド珈琲』と書かれている>
018
ナニーカ
「こんな吹雪の中に店……? 怪しすぎないか?」
019
キノ
「でもあったかそう! 僕、入りたい!」
020
エト
「アタシも」
021
ナニーカ
「おいおいちょっと待て!!金もないんだよ!」
022
エト
「うるせぇぞメガネ」
023
ナニーカ
「エリートメガネと呼べ!」
024
キノ
「あ、見て見て! 看板になんか書いてある!」
<キノがメニュー看板に駆け寄る。>
<黒板には不思議な文字列が書かれていた>
// ☕ TODAY'S MENU ☕
// Solve for your FREE drink!
var drinks = {
blend1: "Guatemala Roast",
blend2: "Organic Blend",
blend3: "House Special",
blend4: "Orange Mocha",
blend5: "Maple Latte",
blend6: "Espresso",
blend7: "Nitro Cold Brew",
blend8: "Earl Grey",
blend9: "Red Eye",
blend10: "Decaf",
order: function(){
return "Secret: " + Object.values(this)
.filter(v => typeof v === "string")
.map(s => s[0]).join("");
}
};
drinks.order();025
キノ
「…………」
026
エト
「…………」
027
ナニーカ
「…………」
028
キノ
「呪文?」
029
エト
「呪文だね」
030
ナニーカ
「古代魔術文字だな……」
<ナニーカがメガネの位置を直し、看板に顔を近づける>
031
エト
「読めんのメガネ?」
032
ナニーカ
「うるさいぞ。昔少し勉強した。えっと……これは術式の構造を示していて……『drinks.order()』を唱えると秘密が明かされる、という意味だ」
033
キノ
「どりんくすおーだー!」
<沈黙>
034
キノ
「……何も起きない」
035
エト
「…w」
036
ナニーカ
「声に出しても駄目だ。解読が必要なんだ。この『Object.values』で値を召喚して、『filter』で文字列の精霊だけ選別して、『map』で各精霊の真名の頭文字を抽出……『join』で連結する……」
037
キノ
「日本語でお願いします」
038
エト
「飲み物の名前の頭文字を順番に並べろってこと」
039
ナニーカ
「え、エト分かるのか?」
040
エト
「昔、ちょっとね」
<エトが目を逸らす。>
041
キノ
「すごい! エト読めるんだ!」
042
エト
「でしょ?今日は勘が冴えてるの」
043
ナニーカ
「……まあいい。頭文字を並べるぞ。Guatemala の『G』、Organic の『O』、House の『H』……」
044
エト
「Orange『O』、Maple『M』、Espresso『E』」
045
キノ
「えぬ! いー! あーる! でぃー!」
046
ナニーカ
「……何で最後だけ読める」
047
キノ
「アルファベットは読めるよ! 家庭教師に習ったもん」
048
エト
「優秀じゃーん」
049
ナニーカ
「悲しきかな、没落貴族の名残よ…」
050
キノ
「うるさいなあw!」
051
ナニーカ
「で、全部繋げると……『G-O-H-O-M-E-N-E-R-D』」
052
キノ
「ごほめねるど?」
053
ナニーカ
「違う。『GO HOME NERD』……『帰れオタク』だ」
<沈黙>
054
キノ
「……僕たち、看板に怒られてる?」
055
エト
「帰りたくても帰れないから困ってんのに」
056
ナニーカ
「何だこの店……感じ悪いな」
<その時、喫茶店の扉がゆっくりと開く>
057
店主
「おやおや、お客さんかい」
<店主は白髪の梟の獣人。穏やかな笑み>
058
店主
「看板の謎、解いたようだね。さあ中へ」
059
ナニーカ
「あ、あの……この謎解きの答え、『帰れオタク』って……」
060
店主
「ん? ああ、違う違う」
061
エト
「違うの」
062
店主
「その読み方は西方式。こっちでは東方式で読むんだよ」
063
キノ
「東方式?」
064
店主
「そう。G-O、H-O、B-I、N-E……『ご・ほ・び・ね』」
065
ナニーカ
「……待ってください。『B』も『I』もないですよね?」
066
店主
「ない」
067
エト
「ないんだ」
068
店主
「でも『ご褒美ね』って読める」
069
ナニーカ
「読めないです」
070
店主
「読めるんだよ、清らかな心の目で見れば」
071
キノ
「わかる! 心の目!」
072
エト
「私達は心が清らかなので読めるんだよ。」
073
ナニーカ
「おだまり?」
074
店主
「まあまあ。さあ、中で温まっていきなさい」
<店内は温かく、コーヒーの香りが漂う。三人は暖炉の前に案内された>
075
キノ
「うわあ、あったかい……」
076
エト
「生き返る」
077
ナニーカ
「……まあ、確かに助かった」
<キノが店内を見回し、何かを思い出すような顔をする>
078
キノ
「なんか……懐かしい感じがする」
079
エト
「何が?」
080
キノ
「わかんない。」
081
ナニーカ
「喪われた過去について関係があるのかもな」
082
キノ
「ほー。」
<店主が三つのカップを持ってくる>
083
店主
「さあ、どうぞ」
084
キノ
「わーい! いただきまーす!」
<キノがコーヒーを一口飲む。カップの持ち方が妙に優雅>
085
キノ
「……おいしい」
086
エト
「本当?」
<エトも飲む>
087
エト
「……うま」
088
ナニーカ
「……どれ」
<ナニーカもメガネを曇らせながら飲む>
089
ナニーカ
「……確かにおいしい」
090
店主
「そうかいそうかい」
<店主がにこにこ笑っている>
091
ナニーカ
「あの、そろそろ僕たち帰らないと……」
092
店主
「帰る?」
093
ナニーカ
「はい。村に帰る途中で迷ってしまって」
094
店主
「ああ、そう……それは困ったねえ」
<店主の笑みが深くなる>
095
店主
「でもね、帰れないんだよ」
096
キノ
「え?」
097
店主
「看板に書いてあっただろう? 『GO HOME NERD』って」
098
エト
「……さっき『ご褒美ね』って言ってなかった?」
099
店主
「どっちも正解さ。『帰れ』……でも帰れない。だから『ご褒美』。ここで永遠にご褒美タイムを過ごすのさ」
<店内の明かりが暗くなる>
100
キノ
「え、え、ちょっと待って……」
101
店主
「この店に来た獣人は、みんなそうなるんだ」
102
エト
「……は?」
<エトの目つきが鋭くなる。一瞬、昔の顔が覗く>
103
店主
「おや、怖い顔だねえ。でも無駄だよ。コーヒーにおまじないを入れておいたからね」
104
ナニーカ
「そんな……!」
<三人が立ち上がろうとするが、体が動かない>
105
キノ
「あれ……足が……」
106
エト
「チッ……動かねえ」
107
ナニーカ
「エトさん元ヤンが出てますよ」
108
エト
「殺すぞメガネ」
109
店主
「大丈夫大丈夫。ここで働いてもらうだけさ」
110
キノ
「働く!?」
111
店主
「キッチン、ホール、皿洗い。三人いれば丁度いい」
112
エト
「……強制労働?」
113
店主
「違う、ご褒美だよ。温かい場所で美味しいコーヒーに囲まれて永遠に働ける」
114
ナニーカ
「最高じゃないだろ!!」
115
キノ
「ナニーカ何とかして!」
116
ナニーカ
「僕だって動けないんだ!」
<ナニーカが焦ってメガネを何度も直す>
117
エト
「……詰んだ」
118
店主
「さあさあ、エプロンを着けようか」
119
キノ
「やだーーーー!!」
120
店主
「やだって言われても困るなあ」
121
エト
「……ナニーカ」
122
ナニーカ
「何だ!」
123
エト
「……逆に考えよう」
124
ナニーカ
「逆?」
125
エト
「あったかい。コーヒーうまい。吹雪の中歩かなくていい」
126
キノ
「!」
127
ナニーカ
「何言ってるんだ!?」
128
エト
「悪くないのでは」
129
キノ
「確かに……! ここあったかいし……コーヒーおいしかったし……」
130
ナニーカ
「キノまで!?」
131
店主
「おお、分かってくれるかい?」
132
エト
「給料は」
133
店主
「コーヒー飲み放題」
134
エト
「福利厚生」
135
店主
「暖炉使い放題」
136
エト
「休憩時間」
137
店主
「一日三十分」
138
エト
「短い」
139
キノ
「短いよ!」
140
店主
「……一時間」
141
エト
「まあまあ」
142
キノ
「僕、ホールがいいな!」
143
ナニーカ
「交渉してる場合か!」